東菱電子は1973年3月に私が26歳の時に設立しました。以来、通信・電子システムの専門企業として、設計・施工・保守を一貫して行っています。鉄道無線、防災行政無線、駐車場管制システム、運転シミュレーターなどの分野で確かな技術と実績を重ね、愛知・岐阜・三重の通信インフラを支えてきました。販売後のケアを重視した設備や機器の保守サービスや修理、メンテナンス、診断まで安心してトータルなサポートをお任せいただけると評価をいただいています。 26歳から52年もの間社長をつとめ、経営全般はもちろん現場の仕事にも関わり続けてきました。人生の多くの時間を費やしてきた会社ですので、大切に繋いでいきたい思いはありました。私には息子がいるのですが大学准教授(2024年時点)として大学に所属しており、研究・教育活動に従事するため社長の後継は断念していました。
創業から社長をつとめ、気がつけば78歳。後継者を育てることができないまま、年を重ねていました。当社の事業は社会インフラに直結しており、社会の変化変動にともなったスピーディーな対応が必要です。現代社会の中でとても重要度が高いビジネスであり、日本の経済社会の繁栄のためにも事業を継続していく使命があります。また、長きに渡るお取引先にご迷惑をかけるわけにはいかないこと、そして社員の雇用を守るためにも事業譲渡を検討することにしました。財務状況や営業実績は盤石でしたが、自分自身の年齢を考えた時、社会情勢に応じた的確な対応が困難になるのではとの危惧があったのも事実です。 メーカー、代理店などの取引先は、事業譲渡に理解を示してくれるだろうか? 社員の円滑な引き継ぎができるのか? そして、今までどおりの会社運営を担ってもらえるのか? などさまざまな不安を解決していくことがまず重要と考えました。
M&Aを決意してから、たくさんの譲受候補企業の方とお会いしました。その中で、なごやホールディングスの林社長から伝えられたメッセージに心が動きました。「自分たちの役割は、成熟した企業をもう一度今の時代に合うような組織に進化させていくことです」と。それは当社が課題としつつも今まで成し得なかったことです。社歴は重ねていても個人営業の域から抜け出せず、ある種のジレンマを抱えていました。この社長の会社にグループインすれば、組織的運営への転換が実現できると感じました。 M&Aにあたっての条件として、会社組織と社員雇用の維持、会社名の継続、事業形態の継続などを提示。スムーズに受け入れられると同時に、今の時流に沿った今後の運営計画も策定してくれました。 当初抱いていた不安や疑念も林社長と話し合いを重ねる中で共感に変わり、信頼を深めていきました。
M&A後も顧客との取引状況はまったく変わることなく継続されています。本当にありがたいことで、当社の基本姿勢である「まじめにコツコツ」と信頼関係を積み上げてきた結果でもあると思います。 また、社員は雇用形態やモチベーションが変わることなく仕事に従事してくれています。社長時代から社員のことは家族のように大切に思っていましたが、それだけにずい分厳しい教育をしてきました。「鬼社長」のような存在だったのかもしれません(笑)。 これからは新社長の方針による変化がより期待されます。成熟企業を時流に適応する企業へ、個人営業から組織的運営への変革などすべての社員が未来に希望を持てる取組みが始まります。
譲渡契約が締結されて一線を退きましたが、寂しい思いはまったくありません。会社を譲るというのは、経営者ならいずれ誰しも経験すること。子どもや親族、社員への譲渡だとしても、いつかはその時がやってくる。以前から、そう客観的にとらえていました。 社長時代から所属しているロータリークラブの活動など、むしろ今の方が忙しくなりました。私は岐阜の奥地の出身で、名古屋市内での創業時はまったくのよそ者でした。そんな自分が、数年前に愛知県のロータリークラブにおける重要な役割を任されました。経営もロータリー活動も、まじめにコツコツやってきたことが糧になったのだと思います。今後はロータリーでの後継者育成のために、お役に立てることがあれば何よりです。 これからの第二ステージでは、より一層地域のための社会貢献活動ができればと考えています。