中村石材店は大正13年に初代が伊勢神宮外宮前で石材店をはじめ、代々伊勢市内で家業として地域に育てていただきました。そして、2024年には創業100周年を迎えることができました。 私は大学卒業後、大阪の石材輸入商社に就職し、商いの原点を学びました。30歳のころ、地元の伊勢に戻り家業の「中村石材店」4代目としての仕事を始めています。長年墓石のご案内をする中で、私たちが大切にしてきたのは「ご先祖を敬う心」です。手彫りや独自のデザインにもていねいに対応し、ご先祖とふれあう時間を大切にしていただける商品の提供が私たちの使命です。 遠方に住む方でもふるさとにあるお墓を拝めるようにと設計した遥拝塔の商品化や、お線香やろうそくのお供えが便利に行える墓石デザイン設計など、それぞれのご供養の時を大切にしていただけるご提案をしてきました。
2008年に伊勢問屋センターに本店を移転し県内最大規模の展示場を開設。業績は順調に推移していきましたが、その後少子高齢化の影響もあり墓じまいの潮流が大きくなったこと、2020年のコロナ禍以降売上が減少するなど経営の不安要素が拡大していきました。 社長時代はほぼ無休で働き、自分がいないと会社がまわらない、組織経営とは程遠い状態でした。組織づくりを含めた企業改革の必要性を考えた時、60歳を過ぎたころから複数の可能性のひとつとして会社譲渡を検討し始めました。支えてくれた社員や取引先、地域のお客さまのことを思うと、会社をたたむという選択肢は自分の中にはありませんでした。 ただ、社員の待遇の面や、お客さまからの中村石材店への印象が変わってしまわないか、ずっと大切にしてきたご供養の精神とともにサービスを提供する思いが引き継がれていくかなど、漠然とした不安はありました。
2021年になごやホールディングスを紹介いただき、面談がはじまりました。譲渡にあたって抱いていた雇用やお客様対応などの不安材料についてお聞きした際、「大丈夫です、安心してまかせてください」との言葉をいただき、大きな安堵感を覚えました。 また、なごやホールディングスのグループ会社である、三重県桑名市のぬし与仏壇店との連携展開も大きな魅力でした。ぬし与仏壇店で成功している樹木葬のノウハウを共有いただくことで、当社の新しい売上の柱ができること。仏壇販売を強みとするぬし与仏壇店と石材販売を強みとする当社との協業による相乗効果。そして両社は同じ三重県内にあり、協業による存在感が増して地域の業界でのリーダー的な役割が果たせるようになる。お互いの優位性をいかして両社の発展が期待できると考えて、なごやホールディングスとの譲渡契約を決意しました。
譲渡後は毎日のように当社に足を運んでいただき、製造現場や経営管理の改善チェックが進められました。また、社員ひとりひとりと数回に渡って丁寧に面談してくださり、社員の気持ちに寄り添った経営姿勢に安心と喜びを感じました。 ぬし与仏壇店と、新たにグループインした岐阜の宮本仏壇店など、グループ内の複数企業を合わせて営業戦略の統一を図り、それぞれの強みを活かしながら組織全体の体制を強化する取り組みが進められています。 社員は新しい組織編成の中で個々の裁量範囲が広がり、各部署と折衝しながら自らも会社運営に参画していく役割を得てやりがいを感じてくれていると思います。 順調に経営は安定化していますが、毎月の営業会議にはなごやホールディングスの担当者も参加して、社員から課題や要望をヒアリングしてさらなる経営改善活動が継続されています。
石材業界は今、大きな転換期にあります。建墓が大幅に減り、樹木葬など供養のスタイルも多様化が進んでいます。そんな中、当社では連携による事業拡大で樹木葬の実績が大きなシェアを占めるようになりました。新しい樹木葬墓地も開発中と聞いています。これは譲渡の決断なくしては実現しなかった成果です。 今、私は顧問としてマイペースで会社を訪ね、社員のみんながいきいきと仕事に励んでいる姿をみて、心から安心しています。これが何よりの喜びです。 事業から一線を退き、新たな挑戦を考える時間と気持ちのゆとりもできました。長くご縁をいただいた地域の皆さまにご恩返しができるよう、地域貢献に関わる取り組みを始めています。こうして第二の人生構築にチャレンジできることに感謝して、これからも会社を見守っていきます。